ふと思い返してみれば……
文/山口 宏

 お恥ずかしながら、このような場所で自分の作品を語るのも何なのですが、今回、特別に機会をいただけまして、公式のインタビューなどでは、あまり語ることの出来なかった『ゲートキーパーズ』の側面などを書かせて頂きます。
ぶっちゃけた話をしますと(笑)、今だから言えること、なんかを書き連ねてみました。しばしの間、お付き合い下さいませ。
(日本SF大会ゼロコン記念本『ゲートキーパーズ クロニクル』、2000年12月30日発行からの再録)



なぜ舞台設定が1969年なのか

 これはゲームの頃から、必ずインタビューで聞かれたハナシですねぇ。よく言われるのが『サクラ大戦』が大正時代だから、それに対抗して。ってな事ですか。実は正直度100%で言いますけど、件の『サクラ大戦』は未プレイでして、企画を立てた時も、その発想の元は、全く別の所にありました。
 実は一部で有名なハナシですが(笑)、私は結構なギャルゲー好きで、一時は狂ったようにやりこんだんですよ。ハイ。特に、最初の『ときめきメモリアル』や『トゥルーラブストーリー』は、猿のようにヤリ込んだ物です。
 ただゲームをやりながら、いつも思っていたのは「今どき、こんなプラトニックな高校生がいる訳ネーだろ」という事でした。少なくとも、自分が高校生だった20年前にすら、やっぱ恋愛に付随する「H」は当たり前のようにあった訳で(自分の事は秘す)、今どき、これは無いだろう、と。
 で、その時、不意に「舞台を少し前に戻したらどうだろうか?」と思いついたのが、最初のキッカケです。

 そうして考えてみると、車にしろ、カメラにしろ、当時の工業製品が自分自身、好きだったし、当時は高度経済成長期で、万博やらアポロやら、社会的な様々な事件も多かった。よっしゃ、ひとつ、この時代を舞台にした作品を作ってみようと。
 後は、ここには色々とオトナの打算もあった訳で(笑)。
 取材で「なぜ1969年なんでしょう?」と聞かれるだけで、相手はこちらの術中にはまってる訳ですよ。これが現代を舞台にしていれば、そんな事は聞かれもしない。ただストーリーやキャラクターについて聞かれるだけ。後にアニメになった時にも、一部の視聴者の意見で「1969年を舞台にする必然が無い!」なんて書かれたりもしましたが、それすらも、すでに視聴者に「一つの話題」を提供している、という訳ですね。ハイ。
 要するに、肯定も否定も含め、語られる時点で「目を引きつけている」ことの証明であると。
 他の作品との明確な差別化を意識しての設定でもあった訳です。

 それと、オトナのいやらしい打算として、もう一つ。舞台を30年前の過去にしておけば、現代編、未来編など、続編が作りやすい、という事もあるんですね。これは『STARWARS』でもおなじみの手法ですけど。そのため、「インベーダーとゲートキーパーは古代からいた!」という設定を作ってみたり、「数百年も少女のままで生き続けている北条雪乃」なんてキャラを出してみたりと。
 いやぁ、オトナって、本当にいやらしいですねぇ。



でも実際の作業は……

 こうして設定上の大前提は出来上がったのですが、そこから先がシンドかった。まず膨大な設定を集める作業。これは「ゲートキーパー」や「インベーダー」という虚構を作品に盛り込んでいく以上、現実にあった事柄は、可能な限り正しいことを伝えていこうという信念もあったからです。
 一つのウソを付くためには、百の真実を言わねばならない。
 なーんて書くとカッコいいですが、ま、ウソにウソを塗りたくっても、ろくな物にならないだろ、という自分自身のポリシーも含めて。
 それと当然のことながら、完全なフィクションよりも、歴史上の有名人や、現実にあった事件などを取り扱った作品が好きだった、という私個人の嗜好もあります。
 映画で言えば『タッカー』『ライトスタッフ』『アンタッチャブル』。少し毛色は違いますが『ロケッティア』など。小説なら『帝都物語』のような。
 ちなみに架空戦記は好きじゃないんです。超スゴイ兵器(笑)があるだけで大国に勝ててしまうような発想が、どうも安易に感じられて。それなら、ポルシェ博士の生涯とか、九州飛行機の技術士官のお話とか、もっとパーソナルなものを見てみたいですね。
 あ、脇道に逸れてしまった。

 えーと、何でしたっけ(笑)。そうそう。苦労話でしたね。
 まあ資料を集めるのは、苦しいの半分、楽しいの半分、というのもありました。もともと、あの時代が好きで、昔から少しづつ、役に立ちそうな本を買い集めていましたから。
 ただ、そこから先。その設定を、いかに物語にキレイにはめこんでいくか、という実作業で、躓いてしまって。

 要するにキャラクター達の心情が、1969年という時代に、どう結びついていくかが明確でなく、そこで、かなり考え込んでしまった訳です。
 策士、策に溺れる。まあ、溺れる段階で策士でも何でもないんですが(笑)。
 で、悩みに悩んで得た結論というのが(ゲーム版ですね。念のため)、過去を舞台にするなら、未来に想いをはせようと。つまりは、「将来に対する期待と不安」みたいなものを、骨子に据えた訳です。
 クサイ言い方をすれば「テーマ」って奴ですか。
 まあ、作り手自身が、自らの作品の主題を軽々しく口にする物ではない、というのが私の考え方なのですが、ここは最後の無礼講ということで許して下さい。わははは。


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